
(左:株式会社KIRINZ執行役員 田原寛大氏 右:17LIVE株式会社Function Lead 土川裕貴)
ライバーという職業が浸透し、ライバーを支える環境づくりの重要性が増す中、育成とサポートに携わるエージェンシーやプラットフォームは何を考え、どのような支援を行っているのか。ライバーを支える体制や支援の実態に迫る。
2025年3月27日、17LIVEがクライアント向けに開催した交流会にて、「ライバー育成とマネジメント」をテーマにしたパネルディスカッションが実施された。
登壇したのは、株式会社KIRINZ執行役員でエージェンシーとして育成業務に携わる田原寛大氏と、17LIVE株式会社Function Leadとしてプラットフォーム運営を担う土川裕貴の二人。ライバーの育成や継続支援に取り組む現場の当事者として、それぞれの立場から見えてきた課題や可能性について、実践に根ざした視点で語り合った。本記事では、そのディスカッションの様子をダイジェストでお届けする。
【登壇者プロフィール】
田原 寛大 氏(株式会社KIRINZ 執行役員)
ライブ配信業界歴6年、元StockForce GM。
マネージャー歴4年。スカウトからマネジメントまで一貫して担当。
累計900名以上のライバーを支援、直近3カ月で7000万BC超を達成。
リスナーとして通算1000万円以上ギフティング。ライバーとしても2年間活動。深夜帯にも関わらず、一定の視聴者数を保つ枠として注目を集めた。
土川 裕貴(17LIVE株式会社 Function Lead)
ライブ配信業界歴8年。
マネージャー歴2年。エージェンシー担当歴5年。
累計50名以上のライバーを支援。スカウト、育成、施策設計、運用までを一貫して担当。
継続こそが、最大の課題であり支援ポイント
モデレーター:
まずは、なぜライバー育成が必要なのかという点からお聞かせいただけますか?
田原氏:
ライバーが一人で正しい方向に成長していくのは難しいというのが、僕の実感です。育成の本質は、「正しい知識とノウハウをいかに継続的に行動に落とし込めるか」。この継続こそが、最も大きな課題であり支援すべきポイントだと思っています。
最近はライバーという言葉もかなり一般化してきて、だからこそ育成のクオリティや、やり方がより問われるようになったと感じています。ただ正しいことを教えるだけではなく、それを「実行できる形」にするのが育成の役割。マネージャーには「正論を伝える」だけでなく、「行動を引き出す力」が求められます。多くのエージェンシーが正しいノウハウを提供しているとは思いますが、それがライバーにとって整理されて伝わっているかというと、まだ課題があると感じています。
土川:
プラットフォーム側の視点でも、「稼働率」や「継続率」が課題としてあがります。田原さんの話にもあったように、「ノウハウ × 継続」の掛け算が成長のカギになると感じています。
そのため、プラットフォームとしてはライバーが活動を続けやすい環境や仕組みを整える必要があります。たとえば、ユーザーが回遊しやすい機能、配信しやすいインターフェース、エージェンシーが育てやすいサポート設計など。さらには、「これがあるから17LIVEで配信したい」と思ってもらえるような企画やキャンペーンも重要だと考えています。

「集客・ファン化・継続」──3つの分岐点を見極める
モデレーター:
支援の現場での課題感をふまえて、次に伺いたいのは、ライバーに求められる具体的なスキルや育成のポイントです。
田原氏:
ライバーに必要なスキルは、「集客」「ファン化」「継続」の3つに集約できると思います。「新規のリスナーが集まらない」、「ファンが増えない」といった相談を受けることが多いのですが、こうした課題は、どのフェーズで詰まりが生じているのかを分解して捉える必要があります。
たとえば、認知されていないのか、プロフィールやアイコンで惹きつけられていないのか、配信時間が合っていないのか。どのフェーズで離脱されているのかを見極めないと、改善のしようがないんですよね。
ファン化についても、順番が重要です。マーケティングの世界では「マインドシェア→タイムシェア→ポケットシェア」という考え方があります。まず心をつかみ、次に時間を使ってもらい、最後にお金が動く。その順序を無視して「ギフトが飛ばない」と悩むライバーさんは、まずマインドセットから見直してほしいなと思います。この順番が崩れてしまうと、エンゲージメントを築く前に離脱されることも多くなってしまうんです。
土川:
その延長線上にあるのが「コミュニティをつくる力」だと思います。リスナーにとっての居場所をつくれるライバーは、やはり定着率も高い傾向があるんです。
この居場所とは、たとえば家族や友人との関係のように「また帰ってきたくなる空気」がある場のこと。ライバーが配信の中で、ユーザー一人ひとりにとっての心地よい空間をつくることができると、自然とファンも増え、ライバー自身のモチベーションにもつながります。
こうした価値をライバー自身が理解するには、マネージャーやエージェンシーが「あなたは今こういう空気を作れているよ」と言語化して伝えてあげることが大事です。そうすることでライバーが自信を持ち、さらに良いコミュニティが育まれていくと考えています。
まずは、目の前の1人を楽しませることから
モデレーター:
成長に必要なスキルやマインドについて触れていただきましたが、特に配信を始めたばかりのライバーが最初の一歩として意識すべきことはどんな点だと思いますか?
田原氏:
初心者ライバーが最初に意識すべきなのは、「まずは目の前の1人を楽しませよう」とする姿勢です。ライブ配信は、どうしても一対多数になりがちなんですが、最初は1人1人と向き合う感覚を大切にしてほしいですね。特に配信を始めたばかりの頃は、リスナーが1人来てくれるだけでも貴重なんです。その人に「また来たい」と思ってもらうことが、少しずつファンが増えていく第一歩だと思っています。
初心者に対して、リスナーはそこまで高いスキルや完璧なトーク力を求めていません。それよりも「自分をちゃんと見てくれている」と感じられる関係性を求めている。その気持ちをしっかりと受け止めながら、一人ずつ丁寧に向き合っていけば、やがて横のつながりが生まれてコミュニティの芯になっていくと思っています。
土川:
この「初配信の不安」を軽減できるかどうかが、継続の第一関門になるともいえます。初配信の前からできる準備として、私たちが特に大切だと思っているのが、「初配信に来てくれる人を見つけておくこと」です。もちろんアプリの機能を覚えることなども重要ですが、それ以上に最初の配信で誰かが来てくれるという安心感は、ライバーにとって非常に大きな支えになります。
リスナーとして他の配信を見に行って、少しでも関係性を作っておくと、「この人の配信なら、のぞいてみよう」と思ってくれる人ができる。初配信の不安を和らげる意味でも、事前のリスナー活動はとても有効です。

ゴールは、小さく刻むほうが続けられる
モデレーター:
初心者ライバーの成長の第一歩について伺ってきましたが、そこから実際に伸びるライバーと伸び悩むライバーには、どのような違いがあるのでしょうか?
田原氏:
17LIVEで「壁イベント」や「進撃イベント」と呼ばれる新人がステップアップするための大型イベントに参加すると、一時的にすごくフォロワーの数字が伸びるんですよね。でも、終わった後に一気に数字が落ち込んで、「自分には、価値がなかったのかな」と感じてしまうライバーさんも多い。これは、自己効力感や成長実感といった「手応え」が急に消えることによるギャップなのだと思っています。
だからこそ、マネージャーが「期待値の調整」をしてあげることが重要です。たとえば、私たちのマネジメントでは、イベント後半にあえてペースを落とすよう勧めることもあります。10位以内が目標の場合、最後まで全力で走りきるよりも、「少し余裕を持たせて次につなげる」くらいのほうが、燃え尽きずに済むケースが多いと感じています。頑張りきって空っぽになるより、「また頑張れる」と思える状態を残すこと。 それが、継続を支えるうえではとても大事だと思っています。
モデレーター:
ありがとうございます。プラットフォーム側の視点ではいかがですか?
土川:
伸びているライバーにはいくつかの共通点があります。まず、定量的な観点で言えば、月に20日以上、あるいは月間80時間以上配信しているライバーは、平均的に伸びている傾向があります。
加えて重要なのが、マインドセットです。伸びているライバーは、自分の掲げた目標から逆算して「今、何をすべきか」を理解して行動している人が多いんです。たとえば、モデルになりたい、シンガーを目指している、月に◯万円稼ぎたいなど、それぞれの目標に対して、過去にその目標を達成した人がどんなステップを踏んでいたのかを研究して、自分に落とし込んでいる。
そうしたゴールから逆算するマネジメントを、エージェンシーやマネージャーが一緒に考えていけると、ライバー自身の行動も明確になっていくと思います。
田原氏:
私たちも、ゴール設定については、基本的にすべてのライバーさんに実施しています。目標と期限、つまり「いつまでにどうなりたいか」を一緒に決めないと、方向性がブレてしまうので、必ずセットにしています。
特に重要なのは、最初から大きなゴールばかりを見せるのではなく、小さな目標を設定し、それを一つひとつクリアしていくことで成功体験を積ませること。遠くにある大きな旗、たとえば大きなイベントへの出演やコンテストでの入賞などから始めるのではなく、まずは目の前の小さな達成から積み重ねていくことで、自己効力感が育っていきます。
また、始めたばかりのライバーさんにとっては、「これは成功なのか?失敗なのか?」という判断がつきにくいので、あえてふわっとした目標を出して、結果が良かったらしっかり褒める。あるいは最初から低めの定量目標を設定しておいて、「目標をクリアできたね」と達成感を味わってもらう。この積み重ねが継続につながっていくのだと思います。
マネージャーは、成果を出させるプロであるべき
モデレーター:
ライバーの行動やマインドセットに対する支援の重要性が見えてきましたが、ここからは、エージェンシーやマネージャーの役割についてもお聞かせください。
田原氏:
マネージャーの役割は、結果を出させることだと思っています。よくマネージャーは「メンタルケアをしてくれる存在」と言われることもありますが、それだけなら恋人や家族でもいい。僕たちは、成果を出すプロであるべきです。
そのために大切なのは、ライバーのポテンシャルを引き出すこと、成果をしっかり維持させること、そして何より継続につなげることです。たとえ一時的に成果が出ても、配信をやめてしまったら意味がない。だからこそ、環境整備やストレス要因のケアも含めて、マネージャーがしっかり設計して支えることが求められます。
実際、毎月50万〜70万円を稼げているライバーでも、「もういいや」とスッとやめてしまうケースは珍しくありません。なぜかというと、ストレスや配信への負担と、自分の時間やメンタルコストが釣り合わなくなるからです。ブロックしたくてもできないリスナーがいる、使いたくない時間を削ってまで続けている。そういった根本の課題を、マネージャーが一緒に解決していくことが大切だと思っています。
土川:
田原さんがおっしゃっていたような支援の在り方は、非常に重要だと感じています。加えて、プラットフォームの立場からお願いしたいのは、ライバーへの共通マナーや基本的な教養の定着です。
たとえば、プライズ獲得後にフォーム入力ができていない、現場に遅刻してしまう、あるいは屋外配信など禁止行為を無自覚に行ってしまうといったケースも少なくありません。こうした行動を防ぐには、やはりエージェンシーやマネージャーの皆さんから、基本ルールや行動指針をしっかり落とし込んでいただくことが不可欠だと考えています。
「やればできる」と思える体験が、内発的動機を育てる

モデレーター:
最後に、ライバーがモチベーションを保ち続けるために、支援側ができることについて伺います。
田原氏:
モチベーションには、大きく分けて2種類あります。外発的動機は、報酬やイベントなど外から与えられるもの。一方、内発的動機は、やりがいや楽しさといった内側から湧いてくる気持ちです。
外発的動機は非常に強いのですが、それが安定して得られるライバーはごく一部です。たとえば、毎月100万円を稼げるようなライバーであれば、それだけでモチベーションが維持されることもあります。
だからこそ、リスナーに応援されて嬉しいと感じたり、やりがいを持てたり、配信が楽しいと思えるような内発的動機を、少しずつ育てていくことが大切です。外発的な成功体験を重ねながら、「やればできる」「楽しい」と思える状態へと自然に導いていく。この流れを、マネジメントの中で意識するようにしています。
土川:
内発的動機については、やはりエージェンシーやマネージャーが丁寧に寄り添って育てていくべき部分だと思っています。一方で、外発的動機はプラットフォームが担う領域だと考えています。
その文脈で言えば、やはり「これがあるから17LIVEをやりたい」と思ってもらえるような、イベントやキャンペーン、特別なコンテンツをつくっていくことが重要です。それがライバーのモチベーションを支える一因になる。こうした仕掛けを提供し続けることが、私たちプラットフォーム側の使命だと思っています。
モデレーター:
ライバーの成長を支えるうえで、モチベーションや内発的動機をどう育てていくかが、今後ますます重要になりそうですね。今後も、現場の声を活かしながら、より良い支援のあり方をともに模索していけたらと思います。