
音楽ライバーを紹介するためのメディア「17LIVE MUSIC JOURNAL」。アーティストの小西遼さんがキュレーターとして気になった曲をピックアップ・深掘り!
第1弾の今回は、多数の楽曲の中から選ばれた「こどな」を歌う夏美さんと小西さんの特別対談をお届けします!
なんとなく、深夜にすっぴんでポチッと
── まず、小西さんに伺います。なぜ今回、数ある楽曲の中から夏美さんの楽曲を選ばれたのでしょうか?
小西遼さん(以下、小西): アーティストさんの事前情報なしに全ての曲を聞かせていただいたのですが、1周目に聞いた時点でほぼ決まっていました。最初からカツッと掴まれましたね。
まず何よりも声がいいですよね。ハッとする声、説得力がある声っていうんでしょうか。
このピアノのイントロって、ぶっちゃけるとめっちゃありきたりなんです。でも夏美さんの声が乗っかってきた瞬間に、一瞬で曲の世界観に持って行ってくれる。だからもう一度聞くと、もうありきたりには聞こえない。
「本当に優れたアーティストは他の音も全部良くしてしまう」という特質があるんですが、夏美さんの声にはそれが備わっていると思います。
夏美さん(以下、夏美): えーっ、めっちゃ嬉しいです。こんなに褒められたことない。
── 詳しい講評は後でもお伺いするとして、夏美さんが音楽を始められたきっかけについて教えてください。
夏美:音楽は昔から好きだったんです。歌手になりたくて、福岡で高校の芸能科にも通っていたんですけど、1年で中退して夜遊びに走って(笑)。音楽は諦めてたというか、「どうせできんやん」みたいな感じで、逃げていました。
中退後はラーメン屋とか郵便局とかブライダルの仕事とかを転々として、その後飲み屋さんで働いて、毎日飲んでは酔っ払って、帰ったら寝るだけ、みたいな日々を過ごしてました。
でもコロナで2カ月仕事ができなくなった時に、17LIVEのライブ配信に出会ったんです。
本当になんとなく、深夜にすっぴんでポチっとつけたのがきっかけで。最初はしゃべるだけだったんですけど、アカペラでちょっとだけ歌ってみたらみんなが褒めてくれて、「わあ、楽しい!」って。そこからマイクとミキサーを買って歌い出しました。
小西:すごい。17LIVEが音楽活動の原点というか、きっかけになってますね。
夏美:めっちゃなってます。17LIVEがなかったら飲んだくれて、何の目標もなく過ごしてたと思います。

作曲はスキルシェアサイトで発注
── そこからどのように「こどな」が生まれていったのでしょうか。
夏美:実は「こどな」は、初めてのオリジナル曲なんです。
17LIVEを始めてから、だんだん「メロディーと歌詞とハモりを送ってくれれば、曲つくってあげるよ」という声もいただくようになってきたんですが、何から始めたらいいかわからなくて。ある日、アルバムをめくっていたときにぱっと浮かんだのがこの曲でした。メロディーと歌詞と、ほぼ一緒にできました。
小西:最初の曲なんだ!それまではカバーが多かった?
夏美:全部カバーです。絢香さんや福原美穂さんが好きでよく歌っています。
小西:曲はピアノでつくったんですか?
夏美:楽器が基本的にできないので、アカペラでイメージだけつくった後、スキルシェアサイトでアレンジャーさんを見つけて、制作を依頼しています。(1曲完成させるのに)期間は、1カ月くらいですかね。
小西:すごい。インターネットネイティブというか、躊躇がないですね。
夏美:ないっす(笑)。
── スキルシェアサイトで作曲までできてしまうことをまず知りませんでした。
小西:「こだわり過ぎない」って意外と重要なんですよね。初心者の方でありがちなんですが、自分で全部をやろうとしてしまうんです。
でも夏美さんみたいに、メロディーをつくることと歌うことが得意な人がアレンジまで自分でやろうとすると、それを学ぶだけで数年かかるじゃないですか。
それが悪いということではないんだけど、もったいない場合もよくあるんです。
ただこの、人に任せるというのがなかなか難しい(笑)。僕もやっと、自分の得意なこと/不得意なことが見えてきて、人に任せる部分を決められるようになってきたくらいだし。
曲の魅力は打ち出し方の“ずれ”
── 「こどな」の制作背景について教えてください。
夏美:幼なじみの女の子のことを考えてできた曲なんです。彼女は今はもう天国にいるんですが、たまたま当時のアルバムを見返したときに、懐かしいな、この感じを忘れたくないなと思って、つくりました。
小西:「こどな」って言葉がいいですよね。シンプルで覚えやすい。
夏美:これは中学校の担任の先生の口癖だったんです。「君たちはこどなやー!」ってよく言われてました(笑)。「大人になってく私は まだ泣き虫なこどな」という歌詞が入っているように、何歳年を取っても人には子どもの部分が残っているんだよ、というメッセージを込めています。
小西:そのお友達は、どんな方だったんですか。
夏美:小・中学校は一緒だったんですけど、高校では学校がバラバラになってしまって、その後、その子はキャビンアテンダントを目指して海外に行っていたんです。
でも、肺の病気になってしまって。自分が病気だとわかってはいたはずなんですけど、ギリギリまで日本に帰って来んくて。20歳ぐらいの時、すごく久しぶりに地元メンバーみんなで会ったすぐ後に、天国に行ってしまって。彼女との思い出を残すための曲なんです。
小西:曲を制作する時にイメージしていたのは、寂しかったり切なかったりする気持ちですか。
夏美:というよりは、楽しかった思い出とか懐かしい気持ちかな。同じ経験をした方がもしいたら、この曲を通して温かい気持ちになってもらえたら嬉しいなと思っています。
小西:そういう気持ちを曲に乗せるときって、感傷的になることが多いと思うんですけど、それを温かく表現するという発想が独創的ですよね。そのコンセプトと打ち出し方のずれ、不思議さみたいなものが曲にも現れていると思います。
夏美:ありがとうございます。
小西:僕も先日、大切な、そして今はもうこの世にいない人のために音楽を制作する機会があったんですが、僕の場合はそういう時に「祈り」になるんですね。
その人との記憶を音楽に入れて、繋がれたらいいなという気持ちがあって。その繋がりはすごくプライベートなものだから、他の誰にもわかってもらえなくてもいいと思ったくらい。
でも「こどな」に関しては、自分と同じように生きている人たちのところに届いてほしいという想いを感じました。「生きている人たちのための曲」というか。僕はそうならない分、そこがとても素敵だと思いました。

選ばれることに、したたかになる
── 現在はどんな活動をしているんですか。
夏美:本当に始めたばかりで手探りではあるんですけど、今は毎日17LIVEで配信しているのと、週に2回、福岡の天神で路上ライブをしています。
あと、誕生日(8月27日)には福岡のスクエアガーデンというところで初めてのワンマンライブをやりました。サポートのバンドメンバーはネットで調べて、お願いして。
── 作曲もバンドもネットで見つけるというのが今っぽい(笑)。
小西:作曲はどれくらいされてますか?
夏美:この「こどな」の他に、もう2曲つくりました。最新の曲は、誕生日のワンマンライブの時に初めて披露した曲です。
小西:「もっと売れたい」と思いますか?
夏美:うーん、あまり思わないですね。売れて忙しくなったら、自分らしい音楽活動ができなくなってしまう気がして。
小西:なんとなく、そうおっしゃる気がしていました(笑)。でも売れていても、自分らしく楽しくやっている人もいますよ。
京都出身の中村佳穂さんって言うシンガーがいて、映画(『竜とそばかすの姫』)の主題歌を歌ったりもしているんですが、いつも自分のためのモチベーションやペースをとても大事にしています。
夏美:素敵ですね。
小西:ただ、その立ち位置に辿りつくまでにものすごい努力をしているとは思います。
今ヒットしている仲の良いミュージシャンの方を考えても、「気づいたら売れてた」という人は本当に1人もいないんですね。「自分が選ばれる」ということに対して、ある意味“したたか”だし、そうでないと突き抜けられない。
40代でも50代でもずっと現役で歌っていたいと思うんだったら、ドカンと突き抜けるのもひとつの方法ですよね。その方が自分のペースを保てることもあると思います。
夏美:どんなことをやっていけばいいですか?
小西:きっと、沢山曲をつくることなんじゃないかな、と思います。
そして「自分はどの方向性で歌っていきたいのか」を考えることです。例えば映画の主題歌をやりたいのか、CM曲をやりたいのか、誰かに曲を提供したいのか、自分が歌いたいのか。「福原美穂さんと同じ事務所に入りたい」でもいいと思うんです。
方向性を定めたら、事務所とかマネージャーさんごとに、ノウハウがたまってる人が必ずいるので、自分がつくったデモをとにかく聞いてもらえるように送ったりしてみる。
そうして「自分はこれだけデモがあって、こういう人たちに応援されてるんです」と自分を売り込んでみる。そこで事務所所属や興味を持ってくれるマネージャーさんに出会うきっかけが得られるかもしれない。そうなれば今度は「では、こういう人たちに刺さる曲をつくってください」という提案が来ると思います。それに全力で取り組む。できなくても、やる。
……という流れに、多分なっていくと思います。
── ちなみに夏美さんは今、17LIVEと路上ライブですでに生活費を稼いでいると伺いましたが……。
夏美:そうなんです。17LIVEで毎日配信をしていて、聞いてくださるリスナーさんからの応援(ギフティング)が支えになってます。
小西:それは素晴らしいですね。福岡にしても17LIVEにしても、自分が帰って来られる場所で応援してくれる人たちがいるのはすごく良いことだと思います。

カメラ越しでも「1対1」であり続ける
── 今の夏美さんにアドバイスをするとすればどんなものがありますか。
小西:意外とそれがあまりなくて。
自分の曲を制作する時に発注を出せるとか、バンドメンバーも人に頼ることができるとか、路上ライブをやるとか、やっておいた方がいいんじゃないかな、って思うことは一通りやっていると思うので、あとはひたすら、その濃度を高めていくことですかね。
ちなみに今、音楽活動の中で、どんな時に一番楽しいなって感じますか?
夏美:そうですね……。路上ライブとかで、初めましての方がひとり、立ち止まってくれた瞬間ですかね。「今日もやってよかったー!」って、幸せを感じます。
小西:ぜひその感覚を忘れないでいてください。そうすれば大丈夫だと思います(笑)。
僕はKinki Kidsや関ジャニ∞さんのバックで演奏したこともあるんですが、ジャニーズの皆さんを見ていて本当にすごいなと思うのは、お客さんの数がどんなに増えても、例え1万人以上でも、常にファンと演者さんの関係は「1対1」なんですよね。
目が合ったりとか手を振ったりとか、それがカメラ越しであったとしても、「今、1対1で触れあえている」という感覚が変わらなければ、自然とお客さんが増えていくんじゃないのかな。
あとはやれることを全部やれば、きっと道は開けると思います。きっとものすごく楽しいと思いますよ。期待しています!